令和5年度におい・かおり環境協会賞の表彰について

本年度の表彰者は、運営検討会議及び編集委員会より推薦をいただいた者について、表彰委員会で審議のうえ候補者を選定し、理事会の了承を得て、以下の方々に決定いたしました。
なお、表彰式は8月のにおい・かおり環境学会の場で行われる予定です。

<功労賞>

本協会の発展に貢献もしくはにおい・かおりに関する分野において特に優れた功績を認められた個人に贈呈することとし、受賞対象者は50歳以上の者とする。
福山𠀋二 氏(におい・かおり環境協会 理事)
〔推薦理由〕
福山𠀋二氏は、大阪市立環境科学研究所に在籍中、生物脱臭の研究に従事され、長年にわたって悪臭公害をフィールドとして、調査や研究及び対策指導にも取り組まれてこられた。測定技術から対策指導まで、豊富な経験と深い知見があり、理論と実績の両方を兼ね備えた方は同氏をおいて他にはいません。
前身である悪臭公害研究会時代から、官能試験のオペレーターの育成や機関誌の編集などの委員長を務められ、現在の協会の基盤となる事業を支えてこられた。
また受託事業において、自ら臭気対策アドバイザーとして、国内外の悪臭現場に向かい、着実な実績を築いてこられ、協会の社会的信頼性の向上に大きく貢献されてきた。
さらに運営においても、昭和62年から令和5年まで連続して長期に亘り理事を務められ、平成28年から令和元年にわたっては副会長として、この分野の発展に向けて指南していただいた。
協会創立当初から半世紀に亘る同氏の功績は、誠に多大である。

<学術賞>

におい・かおりに関する一連の論文、著作等、学術的研究成果が特に優れた個人に贈呈する。
宮崎雅雄 氏(岩手大学 農学部応用生物化学科 分子生体機能学研究室 教授)
〔推薦理由〕
宮崎雅雄氏は、これまで動物の嗅覚、特にネコの化学コミュニケーションの研究を展開してきた。一連の研究でネコの性識別に重要なにおい物質を特定し、その生成機構を解明した。またネコの尿や糞から種間・異性間コミュニケーションに重要な化合物を同定し、野良猫の糞尿被害防止法も開発した。近年では、ネコのマタタビ反応の研究でマタタビから強力な活性物質、ネペタラクトールを発見し、これに蚊の忌避効果があることも突き止め、ネコのマタタビ反応が防虫に重要な行動であることを突き止めた。さらにネコの舐め噛みで葉が傷つくとネペタラクトールと他の活性物質の組成比が大きく変わり、ネコの反応性と蚊の忌避活性の両方が増強することを発見し、肉食のネコが、反応中に葉を舐めたり噛んだりする意義も解明した。
これらの成果は、ネコのマタタビ反応の全容を解明するものであり、国内外メディアでも大きく報じられている。またあらたな蚊の忌避剤開発にも寄与するものと期待されている。なお一連の研究には、高度なにおい分析技術が必要不可欠だが、氏が喜多純一氏と共同開発したにおい分析装置を使った基礎研究は、第29回のにおい・かおり環境学会にて一般口頭発表部門ベストプレゼンテーション賞を受賞しており、かおり分析技術の向上に大きく寄与するものである。

山本晃輔 氏(大阪産業大学 国際学部 国際学科 准教授)
〔推薦理由〕
山本氏は、嗅覚刺激と自伝的記憶の心理的研究を行っている。におい手がかりの命名、感情喚起度、および快—不快度が自伝的記憶の想起に及ぼす影響の検証を行い、におい手がかりによる自伝的記憶の想起において、命名と感情が重要な役割を果たしていることを示唆した。また、加齢と自伝的記憶の関連について、嗅覚同定能力の個人差と加齢が嗅覚刺激による自伝的記憶に及ぼす影響を検討し、若年者では嗅覚同定能力の高い群がそれの低い群に比べ記憶の鮮明度が高くなったが、高齢者ではその差が確認されなかった。高齢者の健康をサポートする重要な役割を果たす可能性のある嗅覚誘発性自伝的記憶の機能を総合的に評価する新たな手法として、嗅覚誘発性自伝的記憶機能(FAMOS)を開発し高齢者の精神的健康を高める手がかりとなりうることを示した。
嗅覚刺激によって想起される自伝的記憶の関連性から高齢化社会で増加する認知症患者への応用展開を視野に入れた研究は興味深いものであり、かおりの積極的な利用に向けた学術的研究に貢献をするものである。

<奨励賞>

におい・かおりに関する研究業績が、独創的又は萌芽的であり将来性に富むと認められた個人に贈呈することとし、受賞対象者は40歳以下の者とする。
安永元樹 氏(曽⽥⾹料株式会社 フレーバー開発部 第1 グループ)
〔推薦理由〕
安永元樹氏はこれまでに香気成分の分析や嗅覚受容体の応答に関する研究をされてきた。
嗅覚受容体の応答は単純な活性化応答と考えられていたが、近年、複合臭では活性化応答だけでなく抑制反応も起こり、におい分子の相乗的な活性化と抑制が起こることが報告されている。しかし、これらの研究はマウスの嗅覚受容体に焦点があてられており、ヒトの嗅覚受容体に焦点をあてた研究はわずかであった。
安永氏はヒトの嗅覚受容体センサーを用いて複雑なにおいに対する嗅覚受容体の反応を網羅的に解析し複合臭が嗅覚受容体レベルでも加算にならないことを示されている。
これらの研究は大変興味深いものであり、嗅覚受容体の機能解明に向けた学術的研究に貢献するものである。